SAP S/4HANAへの移行に関する最新情報をお知らせするブログシリーズの第4回になります。なお、本ブログの内容は2023年11月の技術情報に基づくものであり、将来変更となる可能性があります。
第5回 カスタムコード(アドオン)の移行
SAP ERP上での追加開発は日本では一般的にアドオンと呼ばれますが、本ブログではグローバルに合わせてカスタムコードまたはカスタムオブジェクトと記載します。
これからSAP S/4HANAにシステムコンバージョンで移行しようと検討されている方は、どの様にカスタムコードおよびカスタムオブジェクトを調整するのかイメージできていない方もいらっしゃると思います。本ブログでは、SAP S/4HANA への移行に伴うカスタムコードの移行についてご紹介していきます。
SAP S/4HANA への移行に伴うカスタムコード調整が必要な理由
SAP ERPでは、各アプリケーションは多くのテーブルで構成されていました。
SAP S/4HANAでは新しいリアルタイム要件、ビッグデータ、高スループットのためにデータ構造が変更されています。索引と履歴テーブルは廃止され、オンザフライ集計されるようになります。ただし、多くの廃止テーブルには互換ビューが用意されているので、旧テーブルからデータを読み込んでいるカスタムコードの多くは、これまでどおり機能するような仕組みがあります。
SAP S/4HANA への移行に伴うカスタムコード (カスタムオブジェクト)調整
SAP S/4HANAへの移行にあたり、全てのカスタムコードを修正する必要はありません。最低限、クリティカルな影響を受けるカスタムコードのみ修正を施すことで移行のコストを下げることができます。
多くのお客様で、実際には使用されていないカスタムコードが存在しています。それを見極めるために、SCMON/SUSGというツールやST03Nを活用頂けます。そのうえで実際にSAP S/4HANA化による影響分析を行うツールについて紹介します。
カスタムコード(カスタムオブジェクト)の影響分析
SAP S/4HANA では標準オブジェクトの ”シンプル化” により、処理の大幅な簡素化とともに大量データの高速処理を可能にしています。標準オブジェクトの統廃合や機能拡張に伴い、それらのオブジェクトを使用しているカスタムコード(カスタムオブジェクト)に対して調整の要否を確認する必要があります。
カスタムコード(カスタムオブジェクト)の影響分析では、変更された標準オブジェクトは何か、どのカスタムコード(カスタムオブジェクト)が影響を受けたのかを特定します。そしてカスタムコード(カスタムオブジェクト)をどのように変更するべきか把握して、調整を行うべきカスタムコード(カスタムオブジェクト)のボリュームを明確にしていきます。
カスタムコード(カスタムオブジェクト)分析実施のタイミング
ABAP Test Cockpit (ATC) を利用して、カスタムコード(カスタムオブジェクト)の影響分析を実施するタイミングとしては、テクニカルコンバージョン前 (a) およびコンバージョン後 (b) が想定されます。また、アセスメントにおいても同様のカスタムコード(カスタムオブジェクト)分析を行います。
Custom Code Migrationプロセスは、 ①テクニカルコンバージョン前の「カスタムコード分析ステップ」と、②コンバージョン後の「カスタムコード適合ステップ」で構成されています。
①カスタムコード分析ステップ:
ABAPコールモニタ(トランザクションSCMON)は、本稼働システムでのABAPコード(汎用モジュール、メソッドコールなど)の実行状況(使用状況)を監視します。トランザクションSUSGは、ABAPコールモニタによって一定期間収集された使用情報を集約します。
コンバージョン前の SAP ERPに対して Central Check System から ATC を起動し、影響を受けるカスタムコード(カスタムオブジェクト)を特定します。ただしシステムはまだシステムコンバージョンされていないため、実際に調整作業の実施が可能なオブジェクトは一部に限られます。本フェーズにおけるカスタムコード分析は、主にカスタムコードの調整に必要な作業工数の見積もりを目的として実施されます。
②カスタムコード適合ステップ:
Central Check System またはシステムコンバージョンされた SAP S/4HANA システムにて ATC を起動します。チェック結果からシンプル化によって影響を受けるカスタムコード(カスタムオブジェクト)を特定し、実際の調整作業を行います。 一部の調整はABAP 開発ツール (ADT) を使い、ATC 結果に基づいて半自動のクイックフィックス機能でカスタムコード調整することが可能です。
カスタムコード(カスタムオブジェクト)分析ツール: ABAP Test Cockpit (ATC)
ABAP Test Cockpit (ATC) を利用して、SAP S/4HANA化に伴うカスタムコード(カスタムオブジェクト)の影響分析を行うことができます。ATC は変更されたオブジェクトの一覧情報 (Simplification Database) を参照し、カスタムコード(カスタムオブジェクト)をコーディングレベルで分析します。シンプル化の影響を受ける可能性があると判断されたカスタムコード(カスタムオブジェクト)に対して、関連する SAP Noteが提示されます。これらのSAP Noteに詳細情報が記載されているので、これを元に調整を行うことが可能です。
カスタムコード(カスタムオブジェクト)分析ツールのオプション
GUIベースのABAP Test Cockpitを使用する方法と”Custom Code Migration” Fiori appを使用する方法があります。また、SAP Business Technology Platformで”Custom Code Migration” Fiori appを使用して分析が可能になりました。
どのオプションでも、調整が必要なカスタムコードを特定することが出来ます。既にSAP S/4HANA環境がある場合またはSAP BTPを使用可能な場合は、GUIベースには無い機能を利用できるため、”Custom Code Migration” Fiori appを使用する分析方法を推奨しています。例えば、フィルタ機能があったり、カスタムコード調整のスコープを定義したり、SUMフェーズで不要なカスタムコードを削除する設定を行うことが出来ますので、作業効率を高めることが出来ます。
Custom Code Migration Fiori appでの分析については、SAP Blog Post: Custom code analysis for SAP S/4HANA with SAP Fiori App Custom Code MigrationとSAP Blog Post: ABAP custom code analysis using SAP Business Technology Platformを参照ください。
また、以下のドキュメントやブログも有益ですのでご参照ください。
SAP Help Portal: Custom Code Migration Guide for SAP S/4HANA 2023
SAP Blog Post: Get started with the ABAP custom code migration process
SAP Blog Post: Custom code adaptation for SAP S/4HANA – FAQ
SAP Blog Post: RISE with SAP and custom code migration – What is included
まとめ
本ブログは、SAP S/4HANA への移行に伴うカスタムコードの移行についてご紹介しました。
どの様にカスタムコード(カスタムオブジェクト)を調整するか、ご理解いただけたと思います。
合わせて、以下のブログもご覧ください。
第1回 何故、SAP S/4HANAに移行するのか?目的の作り方
第3回 SAP Readiness Checkとシステムコンバージョンのステップを知ろう